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本シリーズは全7話の実録連載です。事件の発端(第1話)はこちらからどうぞ!
警察のWebのサイバー相談窓口に届け出る
ここまで来ると、もう個人で黙って片付けていい話ではない。
Google、Microsoft、Yahoo!、Amazon、SNS。
ブログまで奪われ、家族のマイナンバーカードや運転免許証の画像も流出した可能性がある。
気付いていない所で、被害が進行しているかもしれない。
とはいえ、こんなことになった原因は、すべて自分の管理の甘さにあると思っていた。
今後の為にも、まずは相談して記録を残してもらうことが大切。
そこで、警察へ相談することにした。
いきなり交番へ駆け込んだわけではない。
まず利用したのは、警察のWebのサイバー相談窓口だった。
そこには、大きく分けて三つの選択肢があった。
- 通報
- 相談
- 情報提供
被害状況は深刻だったが、金銭的な被害については、ほとんど確認できていなかった。
ならば真ん中だろう。
「相談」
必要事項を入力して送信した。
そして返ってきた答えは、実に簡潔だった。
「所轄の警察署へ相談してください」
……結局は、そうなるのね。
所轄の警察署に事前に予約を取り、その足で身分証明書の変更にも行くことにした。
運転免許の「免許証番号変更」手続き
まずは、運転免許証である。
Google フォトやメールには、就活時の本人確認のために撮影した免許証の画像が残っていた。
Google Takeout で持ち出されたことが確認されている以上、そのまま使い続けるのは気分が悪い。
そこで、「番号変更」の相談へ行った。
ところが、
「警察へ相談済みでなければ、番号変更できません」と言われてしまった。
先に警察署へ赴いてから行くべきだったのだろうか――順番が逆だったようだ。
幸い、Webのサイバー窓口から相談した記録がある。
さらには当日来訪予約をした警察署に連絡を取ってもらって、何とか認めてもらえた。
今回、私が粘ったのは単なる再交付ではなく、免許証番号そのものを変更したかったから。
再交付だけでは、免許証番号は原則として変わらないのだ。
証明写真とセットで流出している以上、今後何かの身分証明代わりに使われるのは容易に想像がつく。
説明に時間はかかったが、考慮してくれた免許センターの担当者に感謝である。
マイナンバーカードの「番号変更」までの長い道のり

そして、いよいよ所轄へ。
だが、警察へ向かう途中で、バッグの持ち手が外れかけるという事態が発生していた。
書類が入りやすい様に、昔使っていた大き目のバッグを引っ張り出したのが原因で、いつの間にか経年劣化により風化しかけていたのだ。
寝不足の顔で、ボロボロの鞄を抱え、資料を握りしめて警察署へ向かう母雀。
到着後すぐに、身元の確認が行われ、
情報窃取型マルウェア(インフォスティーラー)侵入の経緯から説明することになった。

ヤフオクで、怪しげな 中古の Office を買ったあと、
アカウントを乗っ取られまして……。

へぇ~。
犯人にオフィスを乗っ取られたの?
そりゃ物騒だね。

……?
いえ。
Microsoft の方の Office です。

何それ?

……Excel とか Word とかの。
そこに、ウィルスが混入していたと思われます。

あぁ…。
開始数分。
早くも、嫌な予感がした。
どうやら今回の担当刑事さん、デジタル方面はあまり得意ではないらしい。
アカウントがどうとか、Google Takeout がどうとか説明しても、理解してもらえる自信がない。
できる限り簡素に伝えることにした。

SNSとか、Amazon・Yahoo!オークションとかも乗っ取られて、勝手に出品されそうになりました。
海外にブログのアカウントを取られて、広告費を使われそうになったりもしてまして……。
個人情報や、運転免許証などのデータも流出しました。
刑事さんはしばらく話を聞いたあと、核心を突いた。

で、被害額は?
聞かれるとは、思っていた。
これまで何週間も走り回り、大量のアカウントを閉鎖し、クレジットカードを変え、Google の1TB の写真と格闘し、Yahoo! や Amazon の出品者登録を止め、海外に渡ったブログも取り戻した。
まだ就職して間もない職場で、仕事中もスマートフォンを握りしめて対応した。
その成果を金額に換算する時が、ついに来た。

今のところ……
Office 購入代の、1,000円 です。
・・・。
「あんた何しに来たの?」と、刑事さんの顔に、はっきり書いてあった。
いや、分かる。
警察からすれば、まず実際の被害を見るのだろう。

被害届を出したところで、
その 1,000円 が戻ってくるわけではないよ。

ええ。
そこはもう、いいんです。
犯人は、今でも Yahoo!オークションで売っています。
IP アドレスも分かります。
スクリーンショットと、被害状況などは書類にまとめてきました。
心なしか、ボロボロのバッグの方をチラ見していた気がした。
被害届も出さず、お悩み相談で来たと思われたのか。
あるいは、マジで 1,000円 のためにここまで来たと思われたのだろうか。
今思えば、銀行への開示請求も行ったし、
諸々の請求代まで足しておけば、もう少し被害額を盛れたかもしれない。
いや、そういう問題ではないだろう。
結局――
書類は受け取ってもらえなかった。

私の個人情報が流出したのは確認が取れていますが、
家族の運転免許証や、マイナンバーカードの情報も流出した可能性があるんです。
それを変更したいので、警察への相談記録が必要で……。

あぁ、
そのために来たのね。
番号を発行するから、市役所で伝えて。
長い旅の末、ようやく話が通じた。
子どものこれからの長い人生を考えれば、身分証の流出リスクを放置するわけにはいかない。
それに、今後いつ降りかかってくるかもわからない「見えない被害」への唯一の布石として、警察への相談記録をどうしても残しておきたかった。
犯人につながる情報提供ができなかったのが、ちょっと残念ではあるが…。
成人・無職男性が、身分証明として提示を求められたものとは?
警察への相談を終え、子雀たちと合流し、市役所へと向かった。
次は、マイナンバーである。
母雀の手続きだけなら、まだよかった。
問題は兄雀である。
当時、兄雀は浪人生。
18歳は成人に達している。
ところが学生ではないので、学生証がない。
健康保険証も、単独では身分証明代わりには使えない。
顔写真付きの書類なら1点、顔写真のない書類なら2点必要になるので、
あと1点、本人であることを証明するものが足りないのだ。
市役所の担当者があれこれ上司と相談してひねり出した答えが、
「母子手帳」+「診察券」+「健康保険証」である。
成人男性の本人確認に、母子手帳とは……。
しかも、2点ではなく3点に積み増されてるし。
デジタル世界では Google に本人だと認めてもらえずにロックを食らい、
現実世界では生まれた瞬間まで遡って、身分を証明することになるとは思わなかった。
本人確認とは、かくも奥深い。
こうして、警察への相談と身分証関連の手続きを終えた。
被害額は1,000円でも、危険は1,000円分ではない。
ただ、これを節目として、ようやくアカウントの外側に目を向ける余裕ができた。
まだ一つ、どうしても信用できないものが残っている。
毎日、目の前に置かれている「母雀のPC」である。
今度こそ、マルウェア(インフォスティーラー)との決別を果してやる。
後日談として……
複数アカウントを閉鎖し、200件以上のパスワードを見直した結果、3か月後にとんでもない形でその影響が飛び火することになります。
無論、当時はセキュリティを立て直すためにやったことなのですが……。
3か月後の教訓として、古いアカウントを閉鎖する前に、そのアカウントが昔の端末やサービスに残っていないか、一度確認しておくことをお勧めします。


