俺のまわりの不思議な話|夜の武田神社で聞こえた謎の祭り囃子(Vol.6)

諏訪太鼓の戦勝祈願。霧の背後から現れる武田の騎馬隊の図 カオス

今回は、俺の話ではない。
だから、その夜に聞こえたという「声」を、俺は知らない。

ただし、その場にいた父雀も知らない。
兄雀も知らない。

聞いていたのは、母雀だけだった。

日常のすぐ横にある「向こう側」

そういえば以前――。

病院の地下でコンビニへの入口を探していて、扉を開けたら、霊安室だったことがある。
「あ、すみません。部屋間違えました」
では済まされない、あの冷気。

入口の見た目だけでは、その先がどこなのか分からない。
日常の導線のすぐ真横に、なんの警告もなく「向こう側の世界へ逝ける扉」がそっと配置されているトラップ感。

今回は、その扉すらなかったのかもしれない。

水難と熊を避けたはずの猫旅行――秩父の味噌ポテトと夜の武田神社

そもそも今回の旅行は、少し変だった。

今年は家族3人に「水難の相」が出ている。
行きたかった場所も、占いで方位がかなりよろしくないと出た。

  • 水辺は避ける
  • 熊が出そうな場所も避ける
  • 方角も悪くないところへ行く

しかも、シルバーウィーク真っ只中に台風まで来ていた。
とりあえずマシな方角へ出発し、あとは気の向くままの猫旅行。

最初に向かった秩父は8割が臨時休業で、味噌ポテトだけあった。

そこで兄雀が、
「武田神社に行きたい」と言い出した。
武田家の居館、躑躅ヶ崎館があった場所だ。

漆黒の武田神社と「カサッ」の物音――警戒レベル最大の母雀

到着したころには、すっかり日が落ちていた。
街灯らしい明かりもほとんどなく、鳥居の向こうは黒い。

境内へ入る。
その瞬間だった。

カサッ。

狛犬の辺りから、何かが動く音がした。

「うわっ!!」

母雀、開始数秒でビビる。

兄雀たちがざっと確認したが、特に何もいない。
だが、この時点で母雀の警戒レベルだけは最大まで上がった。

そもそも今回の旅行では、熊を避けることも重要課題。
暗闇から聞こえる「カサカサ」は、母雀にとって風情ではない。
敵影である。
それに妙な子供の声も聞こえてくる。

父雀と兄雀は特に気にしていない。

歴史好きの兄雀にとっては、ただの神社ではない。
ちょうど受験生でもあるので、信玄公だけでなく、武田家の面々(義信公・勝頼公・繫信公)にもよくお願いしてきたらしい。

そして参拝を終え、3人で境内を歩いていた時だった。

母雀には、はっきりと叫び声が聞こえていた。

脳内をよぎる諏訪太鼓と出陣の祭ばやし――黒帯の2人には届かない音

遠くから、何人かの子供が囃し立てるような声。
何故か聞こえるのは、母雀だけ。

武道の稽古で聞く、
「ヤッ!」
「エイッ!」
という短い掛け声ではなかったという。

謎の長く呼応する子供っぽい声。
それが何度も繰り返される。

母雀の脳裏には、その声を聞いた瞬間から、昔見た映像が浮かんでいた。
童子たちが諏訪太鼓を叩き、囃し、舞う。
その後ろ、霧の中から武田の騎馬隊が現れる。
何という作品だったのかは思い出せない。
ただ、その光景だけは妙にはっきりと浮かんでいた。

だから母雀は、兄雀にこう聞いた。
「出陣前の祭り囃子みたいな叫び声、聞こえない?」
兄雀「???」
兄雀からすれば当然だった。
祭り囃子どころか、子供の声すら聞こえていなかった。

その声のする方向に駐車場があり、堀を回り込むように歩いてたどり着いたらしいが、
境内に入るまで、周囲は静まり返っていた。
父雀は剣道の、兄雀は空手の有段者。
もし近くの武道場から聞こえる稽古の掛け声なら、2人の方が聞き慣れている。

狸に化かされたのか?――兄雀の受験祈願に届いた謎の戦勝コール

母雀は、微妙な顔で車に戻ってきた。

俺は車の中で寝ていたから、
あの声の「元」が何だったのかは、分からない。

調べても、それらしい催しは見つからなかった。

こういう時、昔の人なら「狸囃子」とでも呼んだのだろうか。
もっとも、兄雀への受験祈願だったはずなのに、聞こえたのは母雀だけである。

でも、嫌な感じは、全然しなかったそうだ。

受験祈願で来た夜に、戦勝祈願みたいな声。
「縁起がいいかも。」って言っていたが、
神託にしては、宛先を間違えている。


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