俺のまわりの不思議な話|0.00秒の世界(Vol.5)

F1と野球と時々、カオス

10秒ぴったりを狙う福引

タイムって、感じるものだと思ってた。
カートに乗り始めた頃から、コンマ何秒の世界に慣れてきて、
なんとなく時間の流れが、肌で分かるようになった気がしていた。

別に特別なことだとは思ってなかった。

その日、母雀と近所のスーパーに行った。
レジ横で見かけたのは、「10秒ぴったり」で止める福引だった。

特賞は、MOTOGPか何かのペア観戦チケット。
バイク系で、それほど刺さるわけじゃない。
でも、購入金額分のチケットが三枚あった。

せっかくだし。
長蛇の列に並んで、順番を待った。

仕組みは単純。
ボックスに手を突っ込んで、ボタンを押す。
表示されたタイムが、10.00秒ぴったりなら当たり。

要するに、誤差がゼロなら特賞。

……まあ、やってみるか。


一回目。

感覚的に「ここ」と思ったところで押した。

係員のお姉さんが、画面を見て、止まった。

「……0.00秒です」

鐘が鳴った。
周りがざわつく。

俺は画面を見た。

0.00秒。

コンマ以下、二桁まで全部ゼロ。
誤差が、ない。

その瞬間——
時間の流れを、つかんだ気がした。

ほんの一瞬だけ。


二回目。

別に狙ったわけじゃない。
でも、さっきと同じ感覚があった。

迷わず、押した。

「……0.00秒です」

画面を見る前に、分かっていた。

ここだ、という感覚が、
まだ指先に残っている。

あ、やっぱり。

お姉さんの顔が、明らかに動揺している。


三回目。

もう確認みたいなものだった。

俺が合わせているのか。
それとも、向こうが合わせてきているのか。

「……0.00秒、です」

お姉さんが俺を見る。
俺もお姉さんを見る。

横で母雀が、なんとも言えない顔をしていた。

係員が飛んできて、機械を検査していたけど、
「……問題ないですよ」と言われた。

そりゃそうだ。
不正のしようがない。

次に並んでいた人の記録は、普通だった。


店長、ごめん

景品は上位が総なめできそうだったけど、
さすがにそれはどうかと思って、特賞だけもらうことにした。

あとはタオルにした。

その特賞の名前は、「ピッタリ賞」。

……出来すぎだろ。

店側は多分、特賞は出す気がなかったと思う。
あの特別賞のケースは、ほぼ当たらない前提の雰囲気を醸し出していた。

もしかしたら、店長の私物だったかもしれないな。

結局、MOTOGPには行かなかったけど。


組違い賞という奈落

そのとき、ふと思った。
これ、俺だけの話じゃないなって。

うちの家族は、全体的にこういうことが多い。

母雀はスプーンを曲げる。

比喩じゃない。
本当に、曲げる。

子どもの頃、「ハンドパワー」ってやつが流行ってたらしい。
スプーンを指先の力だけで、ぐにゃっと曲げるやつ。
憧れて、練習して、習得した。

成功率は3〜4割。

その力は、トランプにも流用できるらしい。
欲しいカードを、本人曰く8割の確率で引き当てる。

宝くじで「6桁の数字」をぴったり当てたこともある。

1等が当たったと思って家族で大喜びした瞬間、
組が違うことに気づいた。

1等四千万円。
組違い賞――10万円。

限界を悟ったらしく、練習はやめたらしい。
それ以降、当たることもなくなったんだって。


家族旅行、無期限延期のお知らせ

兄雀は、おみくじで「大吉」を引き続けている。
ここ10年で外したのは、一回だけ。

その一回が、受験の年だった。

……タイミング、最悪だろ。

今年の正月、家族でおみくじを引いた。
兄雀は当然、大吉。

でも今年、三匹全員で一致したものがあった。

水難の相。
旅行運、大凶。

……家族旅行、行けないじゃないか。

たぶん、ボートは厳禁だ。

うちの家族は、
たまに「誤差ゼロ」を引く。

0.00秒みたいに。

ほんの一瞬、
時の流れと噛み合う瞬間がある。

もしその瞬間が、水の上だったら。

――たぶん、笑えない。


▶ 前回:夜の踏切に灯る光

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